麗江ぶらり旅〜(その6)食は命の泉

中国料理の特徴は南淡(ナンタン)、北鹹(ヘイシエン)、東酸(トンスアン)、西辣(シーラー)と言われている。南方料理はあっさり、北方料理は塩辛く、東方料理は酸味があり、西方料理は辛味が強いという意味だ。
中華料理が好きなのは亡父が中華料理好きだったことによる。父にとっては故郷の味だったからだろう。あるいはお袋の味への追憶だったのかもしれない。
定かには覚えていないが 、五歳くらいから連れられて横浜中華街で食事をしたぼんやりとした記憶がある。年長になってからの記憶では今も続く「同発」が行きつけの店だったように思う。すでに六十年も前の昔話なのでデジャブなのかもしれない。
神戸も長崎も、海外ではロンドンやニューヨークの中華街を覗いたことがある。それでも世界最大の規模を誇る横浜中華街が大好きで、ことあるごとに足を運んでいる。ここに行けばどの地方の中華料理も食べることができる。同発以外にも何軒か行きつけの店がある。
雲南省麗江の旅では飛行機の機内食を除くと、朝昼晩三食、中華料理を食べた。この地方の料理は塩味が基本で四川省が近いこともあって唐辛子やニンニクも効いているが、それほど辛くなく、クセもなくて、食べやすい料理だった。春巻きや水餃子や焼売は一度も食べなかった。この地方では食べないようだ。


海のない地方なので魚貝料理は食べなかった。ちなみの麗江市内を流れる川では魚釣りはしないという。水に棲む魚は龍の化身で尊い生き物であるから食べないとのことだった。玉水寨の池では金色の鱒が養殖されていて、刺身が美味いと言っていたので、麗江の川魚に限ったことなのか、真贋は定かではない。
食べた料理は地元野菜と鶏あるいは豚肉の料理が中心だったけれど、食べ飽きず日本人の口にあってツアーのメンバーにも好評だった。重複はあるが、おそらく五十種以上の料理を食べた勘定になる。すべて素朴な家庭料理に近かった。
雲南省はキノコが特産で地元で食べない松茸はほとんどが日本に輸出されているそうだ。数種類 のキノコは食べたのかもしれないが、季節のせいもあってそれほど印象には残らなかった。




豆から作られたこんにゃくのようなもの、淡水に生える水草のような野菜、色の黒い鶏( 烏骨鶏か)、素朴な豚肉入り炒め物、ベーコンのような焼肉等、おそらく全て食材は地物だろう。豆腐入りスープはまさに日本の家庭料理と同じ味付けだった。
鍋料理以外の調理法は炒め物が多かった。印象に残った料理は野菜も肉も小さく方状に切った薄めの味付けの炒め物だった。数カ所のレストランでこれとよく似た料理を食べた。炒め物ではないけれど、日本の料理になぞらえると意匠は津軽の郷土料理であるケノシルに似ていた。それぞれの料理に日本のような名前はついていないかもしれない。
郷土料理の名物は鍋料理が主流のようだった。鶏肉や豚肉と野菜たっぷりの鍋で、濃厚なスープが美味だった。散策がてら眺めた麗江古城のレストランの中でも鍋料理が食べられていて、この地域の看板メニューのようだった。


堂々と鶏の頭がそのまま入った鍋も美味だった。頭はきっと最も偉い家長か長老が食べるのだろう。
コース料理は品数も量も多くて、我がツアーは、妙齢(!)の人生経験豊かな女性や高齢者ばかりだったので料理が残ってしまったのには後ろめたさを感じた。満腹で、山盛りのご飯(米)に手が出なかったのが、ことのほか申し訳ない気がした。